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微か

世田谷美術館 リオープン記念パフォーマンス 

世田谷美術館

2012.4.6–8 

構成・振付・出演: ボヴェ太郎
音楽: 原 摩利彦

世田谷美術館は、改修工事による約9ヵ月間の休館を経て、2012年3月31日に再び開館いたします。その記念公演として、舞踊家ボヴェ太郎の新作ソロパフォーマンス『微か』を上演いたします。 緑豊かな公園の一隅にたたずむ当館は、自然との共生をテーマの一つとして設計されました。とりわけ1 階展示室は、窓外の自然をパノラマビューとして一望できる稀有な空間です。ここに、場の変容に細やかに応答してダンスをつくる、ボヴェ太郎を迎えます。木々がささめき、風が通りぬけ、光がうつろうなど、ガラスの向こうで刻々と生じる微かな変化を、私たちはボヴェ太郎のダンスをとおして、ゆっくりと受けとめることになります。 静けさに身を浸さなければ、見えないものがあります。自然、芸術、人間のさまざまな関わり方について、その来し方と行く末について、あらためて思いを馳せる春— 皆様のご来場を心よりお待ちしております。 

衣裳製作:砂田悠香理 
制作:米原晶子 
宣伝美術:細川浩伸 
製作協力:Taro BOVE Dance Performance 
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)


野の静寂─世田谷美術館リオープン記念パフォーマンス『微か』によせて
緑の中を、人々が行き交う。風が抜け、陽が差す。雲がよぎり、雨が過ぎる。猫が通る。無数の営みが、ガラス窓の向こうで生まれては消えてゆく。その移ろいを眺めながら、『微か』は姿を現した。ボヴェ太郎は、無為への意志の人である。美しき無為を成立させるために、これほどの慎重さで環境を整える芸術家は珍しいと思う。野にそよぐ花のようにありたいと、しばしば彼は口にする。問われているのは「花」と同時に「野」である。己れの舞をゆだねる良き野を探すことに、彼はおそるべき精力を傾ける。世田谷美術館でボヴェが舞うのは、これで3回目である。2008年、イスラエルの環境彫刻家ダニ・カラヴァンの展覧会でのワークショップの一環として、ほんの15分ほど、この展示室で舞ったのが初めだった。窓外のヒマラヤ杉を活かしながら、自然の姿を硬質に表現したカラヴァンの空間に、彼の禁欲的な舞は淡々と寄り添っていた。翌2009年の『トランス/エントランス』というパフォーマンス・シリーズでは、漆黒の闇に浮かぶ一灯のあかりと己れの身一つによって、エントランス空間を粛然と照らした。2011年、当館は改修工事で休館したが、ほどなくやってくる再開の春の喧騒を思う私の脳裏に浮かんだのは、ボヴェの「聴く身体」にしか宿らない舞の静寂であった。能に深く心寄せるボヴェの動きは、ますます切り詰められてゆく一方だが、以前には感じられなかった微かなふくよかさが、今はある。野に人があふれる春の日の仄かな悲しみが、彼の衣ずれの音とともにやってきては消える。野の静寂を、私たちは彼とともに聴く。
──塚田美紀(世田谷美術館学芸員)

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